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歌が、嫌いだった。
「詩音、あなたの歌は人の心を癒し、活力を与える奇跡の歌。たくさんの人に聞いてもらって、あなたの魅力を世界中に発信するのですよ。」
そう、幼い頃から僕に言い続けてきたのは、僕の母。
世界的なソプラノ歌手として、世界中を渡り歩いていた。
だから、僕は母の温もりをあまり知らない。
物心ついたときにはもう、母の指導の下で歌のレッスンをしていた気がする。
上手く歌えればそれなりに褒めてもらえたが、僕には厳しかった思い出しかない。
いつしか、歌うことが苦痛に感じてきた僕は、中学生になる頃母にこう言った。
「母さん、僕は将来歌を職業にするつもりはないよ。歌いたいときに歌う、それでいいと思ってるんだ。」
「……そう。」
この日から、母のレッスンは無くなった。
そして、母はその日を境に海外での活動を増やし、家にいる日の方が少なくなった。
『歌』のせいで、母と僕の関係は、壊れてしまった。
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