0人が本棚に入れています
本棚に追加
逆エイプリルフール
湯舟に浸かって天井を眺める。これが、一日のうちで最もリラックスできる時間だ。私は防水仕様の携帯端末で、時間を確認した。
「手元に置いておかないと、刑罰なんてひどい話だ」
口にした言葉が悪かったのか、ちょうど端末が着信を知らせた。
家に帰ってまで仕事なんてやってられない……画面を見た瞬間、私は水しぶきを散らしながら立ち上がって、端末を耳に当てていた。
「王子……お戻りは、明日午前の予定だったかと」
音声通話にも関わらず、背筋がピンと伸びていた。
「亜空間に乱れがあったので、早めに出発したんだ。そんなことは、どうでもいい」
「緊急のご用でも?」
「政務官である君に相談があるのだ。相談というか、君に頼みたいことがある」
王子がこう切り出して楽な案件だったことはない。大抵が無理難題だ。しかも、帰宅後に連絡してくるほどの案件。体の中心がギュっと引き締まった。
「明日、執務室まで来てくれないか。地球で面白い体験をしてね。それで、良い案を思い付いたんだ」
王子は思い付くと実行せずにいられない、せっかちな性格。過去にも、このパターンで検討したが、廃案になった案件は多い。
私はギュっと唇を噛みしめた。
「もちろんです。でも、明日の午後には式典がありますのでお忘れなく」
「たった一年、地球へ留学に出ていただけなのに大げさだな」
「それだけ、国民が王子をお慕いしているという証拠です」
「これも職務か……まあいい、では式典前、明日の午前に来てくれ。詳しい話はその時に」
そう言い残し、通話は切れた。
最初のコメントを投稿しよう!