逆エイプリルフール

1/7
前へ
/7ページ
次へ

逆エイプリルフール

 湯舟に浸かって天井を眺める。これが、一日のうちで最もリラックスできる時間だ。私は防水仕様の携帯端末で、時間を確認した。 「手元に置いておかないと、刑罰なんてひどい話だ」  口にした言葉が悪かったのか、ちょうど端末が着信を知らせた。  家に帰ってまで仕事なんてやってられない……画面を見た瞬間、私は水しぶきを散らしながら立ち上がって、端末を耳に当てていた。 「王子……お戻りは、明日午前の予定だったかと」  音声通話にも関わらず、背筋がピンと伸びていた。 「亜空間に乱れがあったので、早めに出発したんだ。そんなことは、どうでもいい」 「緊急のご用でも?」 「政務官である君に相談があるのだ。相談というか、君に頼みたいことがある」  王子がこう切り出して楽な案件だったことはない。大抵が無理難題だ。しかも、帰宅後に連絡してくるほどの案件。体の中心がギュっと引き締まった。 「明日、執務室まで来てくれないか。地球で面白い体験をしてね。それで、良い案を思い付いたんだ」  王子は思い付くと実行せずにいられない、せっかちな性格。過去にも、このパターンで検討したが、廃案になった案件は多い。  私はギュっと唇を噛みしめた。 「もちろんです。でも、明日の午後には式典がありますのでお忘れなく」 「たった一年、地球へ留学に出ていただけなのに大げさだな」 「それだけ、国民が王子をお慕いしているという証拠です」 「これも職務か……まあいい、では式典前、明日の午前に来てくれ。詳しい話はその時に」  そう言い残し、通話は切れた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加