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たっくんの苦手なもの
「たっくんの苦手なものって、何ですか?」
駅で電車を待っている時、私は何気なくたっくんに質問した。
私の彼氏のたっくんはカッコ良くて最強のヤンキーと呼ばれているけど、そんなたっくんの弱点って何なんだろうって単純に気になって。
「苦手なものか……満員電車、かな」
「満員電車、確かに嫌いですよねたっくん」
駅に入る前から、たっくんはいつもちょっぴりピリピリしている。
黒いオーラを全身から放って、俺に触んなムードを醸し出す。おかげで、周りが怖がってくれて満員電車でもそんなに苦しくなく乗れているけど。
「どうしてそんなに満員電車が嫌いなんですか?」
「あ”あ? お前は嫌いじゃねえのかよ」
「思うように動けないのは嫌ですけど……たっくんがいつも守ってくれるから好き、かも……」
たっくんは突然駅の柱にオラッ! と頭突きした。
近くにいたサラリーマンが驚いてホームから転落しそうになった。
「ど、どうしたんですかたっくん!」
「何でもねえ……あいつがなんかニヤニヤしてたからブン殴りたくなって」
「ダメですよ、知らない人を驚かしたら。あ、ほら電車きましたよ」
ホームに入ってきた電車はあいにくたっくんの大嫌いな満員電車だった。
「ちっ……満員か」
「朝のラッシュ時ですから、仕方ないですよね」
私たちは鮨詰め状態の車両に無理やり乗り込んだ。
「大丈夫か、夢乃」
「はい」
今日はいつもより混んでいるかも。たっくんの黒いオーラが効かないくらいぎゅうぎゅうで、ジグソーパズルのピースみたいにたっくんの胸にピッタリとくっついて隙間を埋める。
満員電車、たっくんは嫌がるけど、私は堂々とたっくんと密着できるからやっぱりちょっと好き。こんな時じゃないと、照れ屋なたっくんはなかなか私とくっついてくれないから……。
私にとっては幸せな10分間だなあ……。
◇
(苦手というか……危険すぎるだろ……!)
竜也は幸せそうな顔して自分にくっついてくる夢乃に、心臓をバクバクさせながら息も絶え絶えになっていた。
(満員電車のクソが……俺たちを密着させすぎだろ。殺す気か!!)
別の意味でそれぞれ昇天しかけている竜也と夢乃を乗せて、電車は今日もガタゴト揺れながらレールを駆けるのであった。
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