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光と闇の鎮魂歌
「いつの日か」
私は、ざまぁがしたいわけでもないし、見たいわけでもない。
バドエンシナリオをぶっ壊したいだけ。
だから、この歌声に祈りを込めるの。
「生まれ変わる時には」
「あの頃の思いも伝わっているといいな」
とある乙女ゲームのメインシナリオのヒロインに転生していた私と、隠しルートでのヒロイン、そして――。
「争いの果て傷付き光を失った心」
「壊された世界に訪れる哀しい静寂の時間」
「閉ざされた記憶の数だけ無くした真実」
「変わらないと思っていた何気ない日常」
メインシナリオの攻略対象たち。それに――。
「信じ続けていたかったもの」
「守りたかったものさえも」
「全てが壊されたあの日」
「僅かに残された儚い祈り」
隠しルートでの攻略対象たちと、シナリオ上の悪役令嬢たちも一緒に歌声に祈りを込めて紡いでいく。
「争いの傷跡がもたらした大きな闇」
「消えた心の真実を探してみたけれど」
「消えた命の数だけ続く哀しみ」
海の災いは、堕ちた神。
メインシナリオのヒロインの前世にあたる姫が、かつて生け贄にされかけたのは、神格を取り戻したい堕ち神が贄に望んだから。
「閉ざされた心に再び光が宿る日まで」
「祈りを伝えてください」
「平和への祈りを」
ゲーム中のシナリオでは、バドエンシナリオ以外のルートでは、シナリオの終盤でこの歌の楽譜を見つけてヒロインが海辺で歌うものだけど。
「憎しみの連鎖を断ち切る優しさと云う名の光」
「託された希望のカケラを祈りに束ねて」
まだメインシナリオが始まる時期でもないし、ゲーム中のシナリオでは、ヒロイン以外が歌うことはなかった歌だけれど。
「少しずつ動き始めた世界と共に」
「未来へと進んで行きたい」
「いつまでも立ち止まってはいられないから」
これは海の災いとなってしまった堕ちた神を浄化するために捧げる歌だから。
「哀しみを乗り越えた強さは」
「優しさへと生まれ変わる」
「その思いを伝えてください」
「いつの日か」
「本当の強さの意味を伝えてください」
「どこかで生まれている光のように」
「闇を恐れているだけでは進むこともできないから」
「今はただ生まれたばかりの夢を抱いていて」
海に捧げる記憶は十八年分。
ここに集まった人数は、それ以上。
共に過ごした幸福な時間の記憶。
祈りを込めてそれを捧げることで、堕ちた神を浄化することができるのがこの歌だから。
バドエンシナリオなんてぶっ壊す。
笑顔の溢れる未来への道を閉ざさないために。
今の私たちにとってこの世界は、ゲームの世界ではなく現実で、シナリオに強制される悪役なんて要らないの。
誰かの不幸を嘲笑うような心の貧しい人間になど成り下がりたくはないもの!
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