Ⅰ 風使いシェレイド

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Ⅰ 風使いシェレイド

 ねえ、君。そこの君だよ、君。 君は風のことを知ってる? 知ってるなら、どのくらい知っているかな? 夜になって風が窓をガタガタゆらしたりするとコワいかな? 風のつよい日は、すこしコワいかんじがするよね。 でも、風はコワいだけじゃなくて けっこう、おもしろいし、人々の役にたっているんだよ。 その風のお話をききたくない? はくしょん! と、くしゃみがでるカゼとは、ちがうんだけどね。 ほら、だんだん風のお話をききたくなってきたでしょ。 じゃあ、シェレイドのことを話さないとね。  むかし、ある村にシェレイドというなまえの小さな子がいたんだ。 もしかしたら、君とおなじくらいのとしかもよ。 じつはね、シェレイドは風の申し子なんだよ。 風とお話ができるんだ。 君も目をつむって、耳をすましてごらん。 ほら。 ひゅるひゅる。ぴゅうぅ。 風は見えないけれど、 なにか、お話してるみたいでしょ。 さわ、さわ、さらら。 木の葉をゆらして、音楽もえんそうしているよ。 それにあわせて、シェレイドは、いつも、風といっしょに歌っているんだ。 るるる、りらら、りるりらら、れい。 シェレイドは、いつも空色の長いマントをきていて、ダンスもじょうずなんだよ。 君もいっしょに、おどってみたいと、おもうかい?  シェレイドはね、女の子みたいにきれいな顔をしてる。 だけど、ほんとうは男の子なんだ。 だから、ちょっぴりはずかしくて、いつも空色マントのフードをかぶってるんだよ。 男の子たちが、シェレイドの長いまつげを、からかうからだ。 きっと、みんな、うらやましいんだろうね。 女の子たちは、シェレイドの銀色の髪にあこがれて、 いつもとおくから、きゃあきゃあ、いうんだ。 みんな、シェレイドが、だいすきみたいだ。 でも、シェレイドは、はずかしがり屋さんだから、 いつも空色のフードをかぶってにげてしまう。 だれかがシェレイドを見つけると、 長いマントをなびかせて、おどるようにスキップしながらにげちゃうんだ。 ねえ、シェレイドには、秘密があるんだよ。 君も知りたい? うーん、どうしようかな。 じゃあ、君だけに教えてあげようかな。 シェレイドはね、 じつは風の魔法つかいなんだ。 ほら、シェレイドの手のひらを、よく見てごらんよ。 なにが見えるかな? 小さな風が、たつまきみたいにうずまいているでしょ。 いつも空色の長いマントをきているのは、 いろんな風をかくすためだったんだね。 だから、シェレイドは、風の妖精をよぶこともできるみたい。 でも、このことは、みんなに、ないしょなんだよ。  シェレイドは、いつも丘のうえに こしかけて風を見てる。 世界から風がなくなってしまわないようにみはっているのかもね。 ちょうちょは、風にのってとぶでしょ。  鳥だって風にのってとんでいるんだよ。 風がなければ、花もさかないんだ。 風は花粉をつけたミツバチや、 花たちのタネもはこんであげているんだよ。 それに風がふかなければ、 この地上の空気は、くさってしまうからね。 だから、シェレイドは世界じゅうの風がとまってしまわないように、 ひとりでじっとみはっているんだね、きっと。  シェレイドの生まれた村には、 きれいな緑色の宝石がとれる山があるんだ。 村の男の人たちは、そのエメラルド・マウンテンではたらいているんだよ。 シェレイドにパパとママはいなくて、 アミアおばあさんとくらしてるんだ。 君にはやさしいパパとママがいるから、 シェレイドはちょっと、うらやましがるかもね。 でも、シェレイドは、さみしがらないよ。 アミアおばあさんが、だいこうぶつの シュークリームをやいてくれるからね。 あま~い、あま~い、たまごのカスタード・クリームが いっぱいにつまったお菓子だよ。 いいでしょ。 ちょっと、うらやましい?  シェレイドは、はずかしがり屋さんなんだ。 だけど、いたずらっ子でもあるんだよ。 でも、ほかのひとをこまらせるようないたずらは、しないんだ。 シェレイドのいたずらって、どんなのか、知りたい? どうしようかな。ないしょにしとこうかな。 やっぱり、君も知りたいでしょ? じゃあ、お耳をかして。 こっそり、教えてあげるね。 ある日、アミアおばあさんが、おやつのシュークリームをつくっていたんだ。 そのカスタード・クリームが、あんまりいい匂いだったから、 シェレイドは、手のひらの上に小さなたつまきをつくって、 それをそよ風にかえて、くるくるおどりながら あまい匂いを村じゅうにばらまいちゃったんだ。 そしたら、たいへん。 村じゅうの子どもたちが、匂いにさそわれて、あつまってきちゃった。  シェレイドが、そよ風ではこんだシュークリームの匂いで、村はもう大さわぎ。 子どもたちはみんな、アミアおばあさんのシュークリームをほしがったんだ。 でも、おやつなんだから、そんなにたくさんはつくってないよね。 シェレイドの食べるぶんを、みんなにあげても、ぜんぜんたりなかったんだ。 しかたがないから、子どもたちぜんいんで、なかよくひとくちずつ分けることにしたんだ。 それでも、ぜんぜんたりなかった。 このとき、村の子どもたちがもっとたくさん食べたがったから、 アミアおばあさんはシュークリーム屋さんをはじめることになったんだよ。 君の近くで、そよ風がふいて、あま~い匂がしてきたら、 それもシェレイドのいたずらかもね。
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