同棲するという事

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同棲するという事

「なぁ咲。俺たちさ、同棲しないか?」  突然の提案に、私は目を見張る。 「同棲?」  彼がそんな事を考えていたなんて、思いもしなかった事だ。 「俺たち、付き合ってからもう二年だろ? そろそろ……何というかさ……」  先ほどまでハキハキと同棲の提案をしていた彼が、急にしどろもどろな口調に変化した。 「要はアレだ…………け……け…………けっ」  しどろもどろな口調から、言葉が詰まる彼。  そして、彼が紡ぎ出そうとしている言葉を、ひたすら待ち続ける私。 「ああぁっ! 肝心な言葉を言いたいのに言えねぇ!!」  もどかしくなった彼が、突然叫び出したので、私は落ち着かせるように、彼に言った。 「ねぇ春樹くん。落ち着いて。一回深呼吸しようよ」 「そ、そうだな。高校時代の吹部の先生も言ってたな……」  春樹くんは、まるで子どものように、大きく息を吸って吐いて、を数回繰り返した。 ****  私、綾戸咲(あやどさき)と恋人の向坂春樹(こうさかはるき)くんは、東京で仕事をしている。  彼は会社員。私はJHK交響楽団でトランペット奏者。  最近は大学でレッスンする事になり、週に一度、母校の音大へ通っている。  平日九時から十七時、時々残業する彼と、不定期な勤務形態の私。  J響の定期公演は、平日の夕方以降に開演する事が多い。  加えて地方公演で家を空ける事も多々あり、付き合ってから二年ともなると、すれ違う事も増え、互いの年齢もアラサーど真ん中になり、私は彼との将来に、不安になっていた。 (春樹くんと一緒に暮らしたいな……)  最近になって、私がよく考える事だ。  この日は、久々に二人の時間が持てた。今は彼が私のマンションに来ている。  私が考えていた事を、彼の方から提案してくれたのだ。
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