序章

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序章

 先生がご不満なのは分かります。  せっかくのエイプリルフールだというのに、世間は嘘広告(フェイクニュース)でお茶を(にご)し、自分たちは決して悪質なウソをつきませんと、その日に限って最低最悪なウソをつく。 「誰か、大々的に爆破予告でもしろ!」と、お怒りになる先生のお気持ちはごもっとも……フラストレーションが溜まり、執筆に影響が出る事態は、わたくしども編集者も看過(かんか)できる状況ではございません。  ですので不詳(ふしょう)、新米ではございますが、わたくしの過去――エイプリルフールにまつわるお話で、どうかご溜飲(りゅういん)を下げてくださいませ。そして、できれば、この話はご内密(ないみつ)にお願いいたします。月日が()ち時効となりましたが、(いま)だ心の傷が癒えていない者もおりますので。 ◆  もう数年前になります。  わたくしのクラスに、仲良し五人組の女生徒たちがおりました。彼女たちは明るくてコミュニケーション能力もあり、成績も優秀であることから、素行(そこう)が悪くても多少(たしょう)のことは教師連中から見逃されている、いわゆるスクールカースト上位のグループでございます。  それに引き換え、わたくしはというと、地味で目立たない空気のような存在であり、学校のトイレで持参した弁当を食べている毎日でした。  友人がいないことに不満なんてございませんし、自分が不幸だとも思いませんでしたし、()のエイプリルフールとは無縁であることは幸運なことだと思っていました。  すくなくとも、人生の転機(てんき)となった4月1日(ついたち)のあの日までは。  いつものようにトイレで弁当を食べていた私は、ある会話を聞いてしまったのです。  じつは、仲良し五人組の一人であるAの誕生日は4月1日であり、Aをのぞいた四人は、彼女に内緒で、放課後にいつも通っているカラオケ店で、エイプリルフールならではのサプライズバースデーを企画していたのです。  偶然とはいえ、わいわいはしゃいでいる四人の話を聞き、わたくしに残酷なイタズラ心が芽生えました。もし、わたくしが彼女たちのサプライズを潰してやったら、どんなに良い気分になれるのかと。 ――つまり、スカッとしたかったのです。  
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