VII

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VII

 3月29日、朝。  日高さんが居ないため社長に何度も聞きながら諸々の実装作業をやっていった。社長も徹夜に付き合ってくれている。 「なんとか八割は作れました」 「気をつけろよ。八割だと思ったときは六割だ」 「はい!」  クライアントは今日の夕方の簡易チェックでOKが出れば、3月31日23:59に間に合わせれば良いといってくれた。  ここが正念場である。と、集中しようとした矢先にドアが開いた。 「今日も居ませんでしたァ」  皐月さんはあれから何度も日高さんの住所まで訪ねに行っている。管理人に開けて貰ったアパートの室内は空。実家に連絡しても心当たりがなく、警察沙汰になっている。 「飛んでないと良いケド」 「飛ぶ?」  知らないのォ?と皐月さんの顔が近づいた。 「IT業界の自殺率はワースト1位。特にプログラマーは精神疾患を発症しやすいの。行方をくらますのを指すこともあるけど、死んじゃったってこともあるわ」 「えっ」  あの一緒に飲んだ日。  僕が何か様子の違いに気が付いていればと何度思ったかわからない。  そもそもどうしてこの仕事に躓いたのか、僕はまだ聞いても居ないのに。 「あの、僕!」 「あー、俺。大型案件の営業に成功して、久しぶりに手を動かして仕事したいなー」 「社長!」  引き継ぎ書は置いていけよ、と行って社長は手を振った。
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