音のない屁

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これは、屁がこの世に誕生して間もない頃の話。 音のない屁は音のある屁のことを羨ましく思っていました。 ブブブ! プー! ププププ! バフッ! 音のある屁が尻から飛び出す時にはいろんな音が聞こえました。 それを聞いて周りの人は笑いました。 音のある屁が尻から出て初めて見る世界はみんな笑顔なのです。 音のない屁はそれが羨ましくて仕方ありませんでした。 「僕が世に出た時にもみんな笑顔でいてほしいな」 音のない屁は神様に相談しました。 「神様、僕もみんなを笑顔にしたいんです」 神様はうーんと考えました。 「わかった。ならお前には『におい』をやろう」 「『におい』?」 屁には鼻がないので『におい』というものがどういうものかわかりませんでした。 それでも音のない屁は喜びました。 「よくわからないけど、『におい』でみんなを笑顔にするぞ!」 やがて、音のない屁が世に出る時が来ました。 「よしきた!」 音のない屁は喜び勇んで尻から飛び出しました。 スーッ 飛び出した先にはたくさんの人がいました。 「さあ、笑顔になれ!」 音のない屁はワクワクしてその時を待ちました。 『におい』が人々の鼻腔をくすぐるその瞬間を。 「くさっ!」 「くさっ!」 「やだ、なに!」 人々が次々と大声を上げはじめました。 「やった!」と音のない屁は喜びましたが、どうも様子が変です。 人々は笑顔には程遠い顔をしていました。 鼻をつまんだり、顔の前を手でパタパタと扇いだり、眉間にシワを寄せたりしていました。 「ああ、僕の『におい』が人々を不快にさせている」 音のない屁はガッカリと肩を落としました。 と同時に、心の底からグツグツと喜びが湧き上がってくるのを感じました。 音のない屁は他人の幸せより不幸に面白味を感じるタチなのでした。 そんな自分に音のない屁はショックを受けました。が、すぐに開き直ることができました。 「まあどうせ、僕、屁だしね」 そうしてそれから、音のない屁は、スーッと世に出ては人々を不快にさせ続けるのでした。   おわり
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