万国旗

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 家の近くの図書館に子供専用のコーナーがあるのだが、そこには万国旗が飾られている。  旗の柄を覚えることで国名を覚え、その国にはどんな人がいてどんな物があるかを学ぶ力を養うための物だそうだ。  私の娘もこの旗で色んな国の名前覚え、関心を持った国の文化を知りたがったり、そこの言語を学びたいと言うようになった。  でも今日、その旗を見て娘がこんなことを口走った。 「ママ。旗の中に、いつもと柄の違う物があるよ」  そうげわれ、どれが違うのかを尋ねると、娘はいくつかの旗を指さした。  基本的には同じ図柄だが、いくつかの旗の四方が黒く縁取られている。それが娘には柄が変わったと見えたようだ。 「誰かイタズラしたのかなぁ」  私は何も答えられなかったが、娘の意見に概ね同意だった。ただ、これがイタズラだというなら、誰がどんな理由でこんなことをしたのかという疑問が増えたけれど。  いくつかの旗に書き込まれた黒い縁取り。気にしていても仕方がないので、図書館の人にそのことを伝え、私と娘は借りて帰るための本を探すことに専念した。  そのニュースがスマホに飛び込んできたのは、旗の縁取りのことなど忘れかけた頃だった。  アフリカで起きた戦争。それに参戦したいくつかの国の名前に、私は図書館の万国旗のことを思い出した。  あの時黒い縁取りが書かれていたいくつかの旗。それが総て戦争に加わっている国だったのだ。  傍の縁取りはこのことを予言していた? いや、そんな筈はない。あれはただの偶然だ。  この時はそう自分に言い聞かせたけれど、どうしても気になり、図書館へ足を運んだ際、私は率先して万国旗を見回した。  黒い縁取りの旗が増えている。その場ですぐ調べたところ、今度は全部、隣接し合うヨーロッパの国だ。  それを見てもしやと思っていたのだが、しばらくして、私の嫌な予感は的中した。  今度はヨーロッパで、とある国の内紛を引き金に、数か国の隣国が戦争を始めたのだ。  間違いない。あの万国旗に黒い縁取りが出た国は、しばらく経つと必ず戦渦に巻き込まれる。  判ってしまった縁取りの意味。けれどそれが判ったところで私にはどうすることもできない。  できるのは、どうかこれ以上旗に縁取りが現れませんようにと祈ることだけ。  それでも、その祈りも虚しく、今日また国旗に黒い縁取りが現れた。  白地の真ん中に赤い丸が書き込まれただけのシンプル旗。その四方を黒い縁取りが囲んでいる。  一番恐れていたことが起きてしまった。  私の予想通りならば、近いうちにこの国は戦場になる。それが判っても、こんな話はきっと誰も…夫すら信じてくれないだろうし、仮に信じてくれて逃げるとなっても、逃亡先は外国になるだろうから、それを実行する時間や資金の余裕はない。  そう遠くない未来、この国は戦渦に巻き込まれる。その時私は娘を守り切ることができるだろうか。  三色目が追加された自国の旗。それを目に、私はただただ絶望感を覚えた。 万国旗…完
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!