化之川

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 さつきはやるせない息を吐いた。  せっかく気になっている五玖(いく)と隣の席になれたというのに、まったく仲を進展させることができないまま、月末になってしまった。明日からはまた席替えだ。よほどツキがよくない限り、五玖とは離ればなれになってしまうだろう。 「はああああ、私の根性なし~……」  一応、話しかけようと自分なりに頑張ってはみたのだ。消しゴムを貸したり、朝は必ず自然なあいさつをしたり。五玖から話しかけてくることだってあった。決してチャンスがなかった訳ではない。  ただ、そこから先へと会話を膨らませることができず、いつも業務的なやりとりで終わってしまう。何とかしないといけない、そう思っているうちに期限が来てしまった。  距離を縮める千載一遇のチャンスだったのに。  こんな自分に嫌気が差したので、さつきはとある場所へと向かっていた。  街外れの森の奥に、不思議な力を宿した川が流れている。その川に入ると、人の持つ何かが別の何かへと化けてしまうそうだ。  狐の神様の骨が眠っていると噂されるそこは「化之川(ばけのかわ)」と呼ばれ、知る人ぞ知るパワースポットとなっていた。  化之川に行けば、自分を変えられるかもしれない。  半ばヤケを起こしながら、さつきは森を歩いていた。
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