1.あなただけのお姫様

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 彼は、私以外の者がいる場では、私を嫌っているような態度を決して見せなかった。それは婚約者であった時も、そして、夫になってからも続いた。そのおかげで誰もが、私を、良き夫に愛されている幸せな姫様だと思ってくれているのだ。  でも、そんなのは、全部まやかし。きっとこれは、愛し合う恋人同士を引き裂いた私への復讐なのかもしれない。いっそ、私を世間知らずの酷い女と罵ってくれた方が、どれだけましだろう。  私が彼の事を嫌いになればいい、そう考えた時もあった。でも、誰かがいる時の彼は本当に優しくて、それが嘘だと分かっていても、私の心はそれを信じたいと思ってしまうのだ。  本当は悪い人ではないのに、私のせいで彼をそうさせてしまっている……その負い目が私の目を曇らせる。  会話も、こちらから話しかければ、必要最低限の返事はしてくれた。でも、何を聞いても彼の表情は冷たいままで、私は次第に萎縮し、何も話しかけられなくなってしまった。  ――  ある日、部屋の窓から、中庭にいる彼の姿を見かけた。私の、まだ幼い双子の弟妹が、彼の両側から腕を引いて、遊びをせがんでいる。  彼は困った顔もせず、心からの笑顔で弟妹の要望に応えている。その様子に、私の心は、見えない手で鷲掴みにされたように苦しくなる。  なぜなのだろう。なぜ私だけ。その思いが、私をどんどん苦しめる。  確かに私は、彼と恋人を引き裂いてしまった。でもそれは私が決めた事ではない。私が原因ではあるけれど、私が望んだ事ではないのだ。きっと彼が断れば、無理に話は進められる事はなかっただろうに。  その時。彼が私に気づき、たった一瞬、優しい眼差しを向けてくれたように見えた。でも私にはそれが信じられなかった。 (きっとあれは私の心が見せた、都合のいい幻なのよ……)  私はそう自分に言い聞かせ、震える手でカーテンを閉めた。
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