1.あなただけのお姫様

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1.あなただけのお姫様

 私は、誰からも尊重され、愛され、大切にされ、かけがえのないお姫様だった。この世にふたつとない宝物として扱われ、私はそれを、当たり前だと疑う事なく生きてきた。  だから私は、目の前の男性から言われた事の意味が、すぐには理解できなかった。 「この結婚は、愛のない結婚です。なので、必要に迫られた時以外には、あなたに触れる事は決してしません」  親が決めた結婚相手と、初めてふたりきりになった時。彼の表情からは、それまでの社交的な笑顔は消え、冷たい眼差しが私を見おろす。  私は、生まれて初めて、自分の全てを丸ごと拒絶された。その事があまりにもショックで、頭の中が真っ白になってしまう。  結婚相手は親が決めるもの。そして、私と結婚する男性は、私の事を誰よりも大切に扱ってくれる。皆の姫様から、彼だけの姫様になるだけ。だから、不安に思う必要などない。そう信じて疑わなかった。  でもそれは、こちらの一方的で、勝手な思い込みだった。 (あの話は、やっぱり本当だった……のね)  親しくしている学友から聞いた話を私は思い出す。 『姫様の婚約者に選ばれた方は、身分違いの恋人がいたのに、姫様との婚約が決まって、迷う事なく恋人と別れたんですって。姫様はこんなに魅力的でお優しい方なんだもの、別れて当然ですわね』  でも、私は理解した。それは『私を選んだ』のではなく、『私のせいで恋人を選べなかった』の間違いだったのだという事を。  私は、震える声に気づかれないよう、気高く、常に高貴であれと言われている通りの、凛とした姫として胸を張って言った。 「あなたがそうおっしゃるのも、当然だと思います。それで構いません。私からも、必要な時以外は触れないようにいたします」  でも、彼の望むだろう答えを返したのに、その眼差しは変わる事なく冷たいままだった。
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