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終章
魔術の花火が空を彩り、風に乗って色とりどりの花弁が舞う。
旅人は王都の祭りの様相を眺める。この土地は花が育ちづらいと聞いていた。だからこそ、風に乗って舞う花弁の多さに盛大な祝であると理解ができる。
旅人は懐からノートを取り出しパラパラとめくる。
それは彼が属する国の手記だ。もっと言うならば、他国を巡った旅人たちが書き留めた周遊録。国の命で自分たちは旅をしている。他国の技術を、才能を、情勢を、そのすべてを余すことなく書き留め伝えていくために。
この国へやってきたかつての「旅人」も、どうやら同じような祭りのときにやってきたらしい。残された手記には、今自分が見ているような魔術の花火と風に舞う花吹雪が綴られていた。
「ようこそマトルティカへ。どうぞ、これを胸に」
そう差し出してきたのは、人好きのする笑顔を見せる男性だった。老年期に両足をひたしているような、円熟したしわを持つ男が差し出していたのは花の銀細工だった。その手が義手であると気づいたのは、差し出された造花のブローチをもらったときだった。
「今日は数十年ぶりの祝いの日だよ。良いときに来たね、旅人さん」
「――それは喜ばしい。どんな祝いなのか、聞いても?」
もちろんさ、と両腕が義手の彼はどこか大仰に、けれど聞きたいことにはしっかりと答える形で説明を加えてくれた。
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