序章

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序章

 魔術の花火が空を彩り、風に乗って色とりどりの花弁が舞う。王都ルーフェミアの新市街は皆美しく飾り付けられ、鉱山付近の古い町並みが残る地区もできる限りの化粧が施されていた。  この国はもとより鉱山の町だった。鉱夫たちが寄り集まって町を作っていた時代だ。空もどこか煤けて土埃にまみれた町だったが、今はその面影もない、美しい街並みが広がる。  昨今、小さくとも勢力を伸ばし、勢いのある国がある。その噂を聞いたから、旅人はこの国へ足を運んだのだ。 「あぁ、ちょうどいい日に来ましたね」  門番はにこやかに旅人へ告げた。今日は祭りの日だという。普段は閉ざされたままの王都の門も今日ばかりは開け放たれ、皆が王都での催しを楽しみにしているそうだ。 「おひとつどうぞ!」  旅人の前に、一人の少女が歩み出た。くすんだブロンド髪の少女は小さな手で何かを差し出していた。旅人は少し膝を曲げ、少女の差し出す何かを受け取った。  手のひらに乗るほどの小さなそれは花の形の銀細工のようだった。銀とは言えど、高値にはなりえない不純物の多い物が使われているらしいことは旅人にもわかった。 「今日はね、人形師様の人形が完成したお祭りだから。みんなでおめでとうを言うために、そのお花のブローチをつけてお出迎えをすることになってるの。旅人さんもおひとつどうぞ」  ひとまず、旅人はそのブローチを外套につけることにした。ありがとう、といえば少女は手を振って、旅人の他にやってきた人々のところへ銀細工を届けるため立ち去った。
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