極道の若頭だけどオメガバのある異世界に転生した上、駄犬と龍人族の王に求婚されている。

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極道の若頭だけどオメガバのある異世界に転生した上、駄犬と龍人族の王に求婚されている。

※今までと違い、超~ローペースの不定期更新。  ——死ぬ前の走馬灯ってヤツか?  頭の中に傾れ込んでくる記憶は動画再生というよりも大量の写真のようで、五十嵐羽琉(いがらしはる)はその身に放たれた銃弾に身を射抜かれた。  この馬鹿を抗争に連れて来るのを許可しなければ良かった、とか、昔っから連んでいる悪友に誘われるままに昨日会っておけば良かったな、とか。こんなとこで終わるのは心残りだとか考えてしまい羽琉は目をすぼめた。  二発目の弾丸が放たれる。 「兄貴!」  ——あー、馬鹿。俺を庇うな。とっくに手遅れだ。  いつも側で何かと面倒を見ていた西川拓馬(にしかわたくま)が、代わりに銃弾で倒れる。 「クッソ……っ」  最後の力を振り絞って、拓馬を庇うように脇道に体を寄せて上に覆い被さった。  気絶はしているが、拓馬の急所はずれているしまだ息もある。  もしかしたら助かるかもしれない。  出ていく血液の多さは尋常じゃないが、己よりかは助かる見込みはあった。  ——あー……、くそ、死にたくねえな。誰か、代わりにコイツを助けろ!  心の中で叫んだ。  身を置いている不知火会は今立て直しをしている途中だ。  今年からは商業企業も大きく展開していく予定だったというのに、最悪だ。  若頭にもなった矢先にこんな所で倒れている場合じゃない。 『誰か……助け、て』  ——あ? 誰だ?  聴覚から聞こえてくる音はどんどん遠くなっていくのに、突然ラジオの別チャンネルのチューニングがあったように頭の中で直接声が聞こえ始めた。  音声がザラザラしながら途切れがちになっていて、少年のような青年のような声音でどちらなのか区別がつかない。 『僕の……体を……あげる、から』  ——何だこれ。神ってやつが慈悲でもくれんのか?  慈悲を貰えるようなことをした覚えはなくて失笑する。  極道をやっている時点で真っ当な道からは外れている。  ——最期の最期で幻聴かよ。勘弁しろ。どうせならこの馬鹿な拓馬の声か啓介の声にしろ。  微かに口元に笑みを浮かべると、また声が聞こえた。 『お、願い』 「誰……だ、……てめ……え」 『もし……かして……僕の声が聞こえ……ているの? 生きたい……なら……僕の……からだ……あげ、る。僕に、は、もう耐……えら……れない』 「あー。聞いてんぜ。助けてやる……だからどうにか……っして、俺を生かせ。この馬鹿を……病院に連れていきてえ……んだ。礼にお前の……、復讐も代わりに……やってやる」 『違う。復讐なんて……いらない。母を助けて……。それだけで良い。君は……多分過去の……僕……』  その直後、意識が飛んで真っ黒に塗りつぶされた。  目が覚めたら真っ暗で殆ど何も見えなかった。月明かりだけが頼りだ。  埃とカビ臭い匂いが鼻腔を擽り、やたら硬い場所に寝ているのが分かった。  体を動かそうとして、腹に力をこめた後で違和感に気がついた。  何も身に纏っていないどころか、体のありえない部分から大量の精液が溢れ出してきたからだ。  体もあらゆる所がカピカピで、どれだけ精液を浴びたんだというくらい酷い有様に顔を顰めた。  性行為独特の匂いが充満している。  聞こえてきた声の主が、この体の主であるならば、考えられるのは一つだった。  男に犯された後、放置されている。  ——それであんなに絶望していたのか?  しかもこんな所に放置されているのならば、極道のような組織で動く人間というよりも、半グレやヤンキーのような連中だろうというのが窺えた。  組織は全体的に責任を問われるのを好まないので、足がつく事をしない。  撃たれたのを思い出して、拳銃で撃たれたはずの胸元に手を当てたが、そこは無事のようだった。  痛くも何ともない。  左手首に痛みが走り視線を向ける。真一文字に切り裂かれた跡があった。  ——コイツ生きるのを辞めたのか……。  何とも言えない気持ちになる。  そんなに追い詰められていたのなら道連れにしてしまえばよかったのにと考えてしまったが、それが出来ない人間がいるのを知っていた。  体の主は〝出来ない〟タイプの人間だったみたいだ。  体をくれると言っていたのを考えてみれば、もうこの世に出て来る気はないのかも知れないと考える。  だからこそこうしてこの体に羽琉が入っていられるのだが。  しかし……。 「は? 傷が……消えた?」  病院に運ばれてもおかしくない怪我だった筈なのに、瞬く間に消えていき驚く。 「何だ、この体?」  首を傾げる。  ——まさか治癒とかそういうのか? それなら売り物になりそうなんだがな。まさかな……。  お伽話めいた話は信じていない。  そこら辺にある木に刺さった釘で自分の腕を傷つけてみた。  やはり見る間に完治していく。 「あ、これマジでファンタジーだわ。魔法ってやつか。それにしても細過ぎねーか、コイツ」  視界に入る腕は、月明かりの下で浮き立ちそうな程に白くて節々が細い。  顔に手を伸ばして触れてみたものの、前の体と違って輪郭まで細そうだった。
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