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前から来たいと思っていた海辺の町。この連休を利用してようやくそこへ来ることができた。
駅の側のホテルに荷物を預け、市内散策に向かう。その途中で観光案内の看板を見かけた。
あらかじめネットであれこれ調べてはあるけれど、もしかしたら意外な発見があるかもしれない。
そう思い、案内板を眺めたら、海に面した場所にいくつも赤い丸がつけられていた。
この丸印は何だろう。海の側ばかりだから、展望がいい絶景スポットとかかな?
「観光ですか?」
誰かに尋ねてみたい。そう思った矢先に声をかけられ、私は背後を振り返った。
そこにいたのは五十前後くらいの男性だった。胸につけたバッジに『案内』と書いてあるから、この看板を立てた観光案内に関わる人なのだろう。
「この、あちこちに書き込まれてる赤い丸って何ですか?」
「ああ、それですか。それは…そこから海に飛び込めば、必ず死ねる自殺の名所です。私も、その右端の丸の地点から飛び降りて死ねました」
告げると同時に男性の姿が掻き消えた。
驚きで立ち尽くした体が、やがてぶるぶると恐怖に震え出す。
憧れていた土地に着くそうそう、とんでもない体験をしてしまった。
今すぐ帰ろうか…いや、むしろこれは、絶対近づいてはいけない場所の情報を得ることができた、と考えるべきだ。
滞在中、絶対この赤い丸の場所には近づかない。そう心に刻んで旅行を楽しむことにしよう。
観光案内版…完
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