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「彼氏が欲しい!」
ファミレスでパフェをつつきながら漏らす。正面に座る幼馴染の充が摘んでいるポテトは、手から離れてお皿に戻った。
「夏樹どうした、急に」
充は目を瞬かせる。
別に急というわけではない。高校生になれば恋人ができると思っていた。カッコいいな、と思う人は何人もいた。でも、すでに相手がいたり、カッコいいとは思うけど好きに至るまでにはならなかった。
「もう17歳だよ。いい加減恋人いない歴=年齢を卒業したい」
「好きな奴いるのか?」
「いない」
「じゃあ誰でもいいって事か?」
誰でもいいか、と言われると違う。俺にも好みはある。何もかもが平凡の俺が、選り好みできる立場じゃないかもしれないけど。
「まずは出会わなきゃ始まんないよね。俺は色んな出会いのシチュエーション、恋愛フラグを試そうと思う」
「どういう事?」
「例えば、食パン咥えながら走って、曲がり角でぶつかったり」
「……少女漫画の話?」
「いや、現実にやってみようと思って」
真剣に言えば、充は頬杖をついて瞼を閉じた。
……呆れられたかな。でも、なりふり構っていられないほど恋人が欲しい。
「俺が手伝おうか?」
「……どういう事?」
「食パン咥えて走るってのだって、ぶつかる相手とタイミングは把握しとかなきゃだろ。夏樹が1人でやって、もしぶつかったのが小さな子供だったらどうする? 怪我させたりするかもしれない」
そうか……。勝手にイケメンとぶつかれると思っていたが、それは少女漫画の世界だからか。ヤラセっぽいけど、充に走り出すタイミングとか指示してもらったほうが安心だよね。
「充、俺に協力してくれる?」
「もちろん。それで? 夏樹の好みは? 男なら誰でもいいなら、男が通ったら指示するけど、太ったおっさんでも文句言うなよ?」
「誰でもよくない! 俺の好みは背が高くて堀が深いワイルドな感じの男前。できれば年は近いほうがいい」
「俺みたいな?」
充が口角を上げて首を傾ける。
確かに充は背が高く、くっきり二重で鼻筋が通っているイケメンだ。でも、ワイルドというよりは爽やか。好みは多少違うが、充くらいカッコいい相手とぶつかりたい。
「うん、充くらいカッコいい人と出会えるように協力して」
「任せろ。明日やるか? 土曜だし1日暇だし」
「通学中にぶつかるんじゃなくて?」
「通勤通学の朝はみんな忙しいだろ。ぶつかってきた奴とのんびり連絡先交換するような暇はない」
「そっか、そうだよね。じゃあ明日よろしくね!」
「ああ、9時半くらいに家を出て、駅前のパン屋で美味いパン買おうぜ」
「いいね! 俺、あそこのカレーパン好きなんだよね」
「カレーパンは家で食え。カレーパン咥えた奴とぶつかったら最悪だから。服にカレーついたら泣きたくなる」
「……そうだね。食パンにも意味があったんだね。ジャムもバターも付いてなければ、相手を汚す心配もないし」
手のひらを下に向けて充の前に差し出す。充は手の甲に手のひらが重なるように乗せた。俺の手が見えなくなるほど大きな手。
「絶対にイケメンと出会うぞ!」
「うぇーい……」
意気込む俺とは対照的に、充は気の抜けた声を出して手を下げた。
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