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 東南アジアの小国ニォーズオンの北側に位置するサンドーイ村には百年に一度カエルの皮を被った赤ん坊が生まれるという。  家柄も日頃の行いも関係なく、神から無作為に選ばれた夫婦の元にもたらされる異型の子ども。村に伝わる伝説によればカエルの子どもは手先が器用で裁縫も料理も掃除も全て誰の力も借りずにこなし人間の言葉を理解し話す。だが寿命は短く大体二十年ほどで命を落としてしまうのだという。  異型の子どもの“呪い”を解く方法はただひとつ。他人からの愛情を受け取ることだ。サンドーイの歴史上この方法で人間の姿を獲得した異型の子どもはひとりしかいない。彼女は貧しい若い男に尽くしようやく心を通わせ真実の愛を受けカエルの皮を脱いだのだと伝わっている。  さて、村の長の息子は早くに結婚したが長い間子どもに恵まれなかった。夫婦ともに歳を重ねようやく授かった赤ん坊は百年に一度の異型の子どもだった。折り畳まれた長い脚とイボのついた茶色い背中。大きく開いた口は紛れもなくカエルだった。豪雨の後に生まれた彼女はムアと名付けられ屋敷の奥でひっそりと育てられた。  あれから二十年が経とうとしている。物語の舞台は北の都“怪奇街”ティエンドゥンに移る。
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