クラスにいないはずの男子がいる

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 あー嫌だなぁ。春休みの3日間が、貴重な春休みの3日間が、新校舎完成の為に登校日になったから。  新校舎が完成して、新2年生の私たちは教室移動の為に登校。部活終わりの3年生も手伝ってくれる予定だと担任からLINE。 「よう(しおり)」  ボケーっとしていた私の顔が一瞬にして、キリッとなったのだと思う。電車のボックス席の向かいに座って来たのが幸我(こうが)だから。 「何ボケっとしてんの栞」  幸我と双子の妹の幸莉(みゆり)も一緒。幸莉も一緒なんだと思うと残念だった。まぁ幸莉とは高校が違うから良しとしよう。 「幸ちゃんから聞いてるでしょ。今日から3日間は春休みなのに登校日で」  な、なんと幸莉は、私の目の前に座っていた幸我を通路側に移動させて、自分が私と向かい合って座った。 「お疲れ。栞さぁ、さっき間抜けた感じの顔してて超ウケたよ」  ウケた。ほっといてよ。本当に3日間も学校に行く、こっちの身にもなってよ。 「じゃぁ俺ら降りるから。幸莉、気をつけて行って来いよ」 「うん、幸我と栞も気をつけてよ」  手を振り合って、私と幸我は電車を降りてホームを歩いた。 「さっき嬉しかった」  階段を踏み外しそうになるほど、幸我の言葉が意外だった私。 「さっき? 何だっけ」  幸我は階段を上り終わるまで何も言わなかった。上りきった私が、自動改札を抜けるまで待っていてくれた。 「さっきさ、幸ちゃんって呼んでくれたじゃん、何かマジ嬉しくて」  つい昔の呼び方で呼んでしまった。私たちはいとこ同士。親たちが幸ちゃんて呼んでいても、私は中学校にに入ったら幸我と呼んでいる。幸我も栞って呼んでいるし、中学校に入ったら幸ちゃんて呼べないなって勝手に思って。 「つい呼んじゃった」  クラスは違うから、廊下で別れてそれっきり。クラスごとに机の移動、掲示物の移動を行った。  友達と話しながら、笑い合ったりしていると男子の声が耳に届いた。 「なんか移動より引越しだな。業者に頼みたいよなー」  笑いが起きている。教室をアパートやマンションの1室と考えたら引越しだ。というか、机や椅子を持ったり引越しだ。  教室の掲示物を剥がしていたら、ひょいっと男子が手を出してきて、高い所の掲示物を剥がしてくれた。 「あ、ありがとう」  ニコッと笑った彼の肌の白さに驚いて、ありがとうしか言えなかった。  新教室に掲示物を一緒に持って行った。すると教室が騒めき始める。 「あのさ、栞の横の男子だれ? 」  私と彼をクラスのみんながチラチラ見る。冷静になって考える。クラスの男子を1人ずつ指折って確認していく。どうしたってクラスにいない男子だ。 「転校生じゃない? 」 「だったら紹介されるだろ」  そんな言葉が飛び交う教室の窓際で、彼はロッカーを拭き始めた。数人が彼と一緒に拭き始めた。  午前中に解散した。また明日も続く。とりあえず教室を出ようとしたら、色白の謎の彼が声をかけてきた。 「あの、今日は一緒に掲示物の移動が出来て嬉しかったです。明後日まで登校日なんですよね、まだ移動する物もありますし」  頷いて廊下を見て、心臓がドクンと鳴った。校門で待ち合わせのはずの幸我が私と横の男子を見ていた。ギョッとした顔をしながら教室へ入って来た。 「季良(きら)? どうして季良が」  季良? 誰なんだろう。幸我は隣町在住で、私と小学校と中学校が違うから、その時の友達? でも何で高校にいるの幸我は知らないの? 「あーやっと逢えた。栞さんを通じて、幸我は僕が見えているんだよ」  幸我が言う。 「何で今日だけ出て来たんだ」  俯いた季良君が、大粒の涙を流しながら言った。 「栞さんが幸我と一緒にいたから。今までそんな事なかったのに朝、話していたから。ごめん幸我。あの日、制服見せ合う約束していたのに」  大粒の涙を流し、しゃくり上げる季良君。私はさっぱり話しについていけない。ただ理解出来たのは、幸我と季良君は仲良しで、この高校に一緒に入学する予定だったって事。  幸我が季良君を抱きしめた。 「そうだよ、あの日は制服姿を見せ合って遊ぶ予定だった。災難だったな、親の事情で親と命落としてさ。季良、栞といれば僕が見えるんだろ? 3人で遊びに行こう」  季良君は私に頭を下げた。ごめんね季良君。もっと早く、季良君が見えるように幸我と一緒にいれば良かったのに。クラス離れているしチャンスなかった。  季良君が幸我の横に並ぶ。 「季良、公園で野球するか。ボール拾いは栞がやってくれる」  勝手に決められたけれど、まぁいいかと思って。駅ビルの百均でバットとボールを購入した幸我と季良君と電車に乗る。 「幸莉いないかな、季良も逢いたいよな」  窓の外を見ていた季良君が幸我を見た。 「うん、でもびっくりして騒がれそう。栞さんもいとこだから知ってるよね。幸莉すぐ騒ぎ立てるから」  笑っていた。まさか「そうだよね」なんて言ったら、幸我が幸莉に言うはず。  公園の芝生の奥で3人で野球していた。打つ人、投げる人、拾う人。 「栞も打てよ。昔よく一緒に遊んだろ」  楽しかった。ただ、ボールを拾いながら思った事。さっき幸我が、季良君は親の事情で親子で命を落としたと言った。どうして、そんな辛い事になってしまったんだろう。 「季良、ずっと学校にいたのか」  公園内を歩きながら、幸我は季良君にボールを渡しながら言った。季良君はボールを受け取ると、左手で握りながら空を見上げた。 「うん、あの高校に合格してマジ最高で。幸我と一緒に楽しい学校生活を送れるって、そう信じていたのに・・・・・・だからいた」  幸我を見て、何があったのか教えてほしいと目で訴えた。首を横に振って、声に出さずに、後でと唇を動かした。 「そうだ、今日は栞に家に泊まってもらおう。まだ季良君といる為には、栞が家に来ないと」  そうなるよね。それがいいよね。ふっと池を見ようとしたら、季良君が笑いかけてくれた。もう泣いていなかった。               (了)
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