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* 「ねーえー! もうどうしたら良いっていうんれすかぁ!!」 「お客さん、落ち着いて」  初めて訪れるバーは知らない店主がやっていて、程よい匿名性で話が聞いてもらえるので楽だ。初老の店主は穏やかそうな顔をしている。ジャズの音が響く薄暗い店内には、お客が私の他に3、4組ほど。 「そりゃあ好きだから付き合ってるんですよお? でも、そこに人生全部をベッド出来るかっていうのは別問題じゃーないっ? しかも、むこうはノーリスクなのがなんかっ、こうっ」 「向こうは異動なら職は確保されてるからねぇ」  店主は渋々といった形で会話に付き合ってくれている。ライムのよく効いたモスコミュールは私の人生のように酸っぱい。追加で用意してもらったジンジャーシロップをかければ私にも美味しいと思えるだろうか。 「全部かけて良いと思います?」 「お客さんどっちの話してます?」  “どっちも!”と言いながら私は勢いよくジンジャーシロップを追加した。四杯目のカクテルは普段なら飲まない量だ。透明な軌跡が下に下りていくのをマドラーで掻き混ぜてぐちゃぐちゃにしていく。  愛があれば乗り越えていけるだろうか。  彼のことを想う気持ちと、現実とがうまく噛み合っていない。それを愛という甘いシロップで乗り越えれば、私にも幸せが感じられるだろうか。  そのとき、三個隣の席に居たはずの若い青年が隣に来て私に声を掛けてきた。夏間はサーフィンをやっていそうな焼けた肌が開いた胸元から主張をしている。 「オネーサン、彼氏とうまくいってないの?」
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