クラスメイト

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クラスメイト

「あっ」 卒業式当日の帰り道、何かを忘れた気がして連れ立って歩いていた仲間に声をかけ駆け出した。 誰もいなくなった校舎に響く俺の走る靴音。 階段を駆け上がり2階の1番奥の教室のドアを開けた。 まだ肌寒い風が教室のカーテンが揺らす。 俺の席に座わって下を向いていた誰かがこちらを向いた。 薄茶色の癖毛の髪が教室に指す光を浴びてキラキラと輝いている。 視線が合うと彼の大きな瞳がより一層開いた。 「野崎…」 クラスメイトが俺の名前を呼ぶ。 「あ、悪い…」 何故だか近寄れずにそのまま立ち尽くしてしまった。 「なんで?帰ったんじゃ…」 「あ、うん、忘れ物」 そう言って彼の座っている自分の机を指した。 それも口実だけど。 「ご、ごめん」 「待って!」 急に立ち上がって駆け出した彼に慌てて近寄り、腕をとって引き留めた。 背の高い自分から彼のつむじが見えて捕まえられた事に安堵した。 「離して…」 もがいて腕を引き抜こうとするが、彼よりも大きな体躯の俺にはどうって事ない力だ。 「遠藤、俺に何か言う事ない?」 振り返ろうとしない彼がの首筋が赤く染まる。 「なぁ、こっち向けよ」 少しの沈黙の後、震える声で呟く。 「なんで?なんで僕が何か言う事あるってわかるの?」 なんでって、わかるだろ。 1年前からあんな目で見つめられてたら嫌でもわかる。 それってそーゆう事だろ? 「わかるよ、だからこっち向いて」 涙を溜めた目が俺を見上げる。 「あ…っ…」 「じゃあ俺から」 ポケットから取り出した手の中のものを彼の掌の上にそっと置いた。 「受け取って」 「えっ?」 「意味わかるよね?」 溜めた涙が大きな瞳からたくさん零れ落ちる。 「最初は気のせいかと思った、でもそうじゃないよな?」 手に置いたそれを遠藤は両手で握りしめて胸にあてた。 「…もらってもいいの?」 「お前に渡そうと思ってとっておいたんだ、何かわかる?」 「ボタン…もしかして…」 「そうだよ」 学ランの上から2番目のボタンを指差す。 「なぁ、何も言う事ないの?帰っちゃうよ?」 涙を拭って小さく囁く。 「…すき…好き、好き。野崎が好き、大好き」 零れ落ちる涙の粒が大きくなる。 「泣き虫だな」 頬の涙を指で掬い取る。 「戻ってくるって思わなかった」 「うん、俺は遠藤がここに居るって思ってた、居てくれて良かった」 あんな射るような目で1年も見つめられたら無理だろ。 「俺も好き、付き合ってくれる?」 うん、頷いた顔を見下ろして額に軽くキスをする。 「まずはここから、よろしく」
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