ポロリ

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ポロリ

「ママ!!」 威勢のいい声が、幼稚園中に響く。 「今日はおむかえ早いんだね」 「そうだね」 手を繋ぎ、賑わったアスファルトを歩く。 息子の要望で、少し公園へ寄り道をした。 「キャッチボールしよ〜」 「いいね!」 投げ方が不恰好で恥ずかしくなったが、楽しんでもらえたようだ。 「あ、道路の方に行っちゃった」 「待って、追いかけちゃダメ!」 すかさず呼び止めるが、遅かった。 クラクションとほぼ同時に鈍い衝突音が響くと、軽々と彼は宙を舞った。 「こうちゃん!!」 相当強く地面に叩きつけられたようだ。ぐったりと顔を顰めながら横たわっていた。 しかし当たりどころが良かったのか、血の一粒も出ていない。 「大丈夫…」 と弱々しくも立ち上がった。 「よかった。次からは気をつけてよ?」 「うん…」 土や砂粒をはらうと、ボールを持ってそのまま家へ向かっていった。 「もっと遊びたい」 「ダメ、今日は安静にしとき」 おんぶをしながらそんな会話を交わしていると、一人の青年がこちらをジロジロと見つめていた。 あまりに公然と見つめてくるので、青年に「何がおかしいの」と問いかける。 膨れっ面になった彼女に、青年も問いを返す。 「この子、喋れるんですか?」 予想外な質問をされて、拍子抜けする。 「それはもちろん。もう5歳ですよ?」 「いや、だって…」 瞳孔をピクピクと引き攣らせながら答えた。 「頭が、ないじゃないですか?」 「え?」
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