嵐の去った後に…

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青年は使い古された座布団の上に正座している。おろしたてのスーツに身を包み、お茶を出すというその家の母親の申し出を丁寧に断り、部屋の一角に置かれた仏壇をじっと見つめていた。膝の上に置いた拳を軽く握りしめるとその青年は口を開いた。『しんのすけ、僕たちは春から大学生になるんだ。車も運転できるようになっちゃうんだぜ。』お高いプライドを振りかざしほんの少しトゲのある話し方。風間の口調は幼稚園のときとほとんど変わらない。『ぼーちゃんは北海道の大学で農業の勉強、ネネチャンは服飾の専門学校、マサオくんは一浪て国立大学に入るってさ』…仏壇にある写真の中で彼は屈託のない笑顔をしている。毎日一緒に遊んでこれからもずっと一緒にいるんだろうと信じて疑わなかった頃の写真だ。『僕は都内の一流大学さ。僕の頭なら受かるのは当然さ。春からは東京で一人暮らしだよ。ママが仕送りもしてくれるってさ。…だからな…ここにこうしてこれるのは夏休みや冬休み、それと春休みくらいしかないんだ…』
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