5人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
「何?」
松君は、手に掛けたドアノブから手を離し、私に視線を戻した。
「あの…さぁ~?」
私は、言葉が出ず、モジモジしていた。
「どうかした?なんか今日の井崎さん変だよ?」
「…お腹空いてる?」
適当な言葉で、その場をしのいだ。
「腹?減ってるよ?」
「私もお腹空いてるんだ~♪だったらさ…今からファミレスでも行かない?」
私は、松君を食事に誘った。
「ファミレスに?」
「うん♪」
「今から?」
「そう♪」
松君は、一呼吸置いて「今からは…無理だね…」と、低い声で呟くように話した。
「え…っ?どうして?」
私は、松君の言葉の意味が分からなかった。
「時間も遅いし、こんな時間から食事して帰宅したら、井崎さんの両親…心配するんじゃ?」
「あ…そだよね…」
私は、自分の事ばかり考えていて、その先の事を考えていなかった。
「まぁ、食事するのはいいとしても、俺と井崎さんの家は正反対なわけだし…。危なくね?」
「危ないってなに?」
「襲われたらどうする?」
「え~?私がぁ?」
「そうだよ…」
「ないないないない…。今まで襲われた事なんてないし…」
「井崎さんは甘いなぁ~。もしもの事を考えないと…」
「もしも…かぁ…」
私は、松君の言葉を聞いて考えた。
確かに、襲われない保証はどこにもない。
大丈夫って思っていても、男の人の力には敵わないわけだし。
「だから、今夜は止めよ?また今度誘ってよ!じゃあまた」
松君はそう言うと、扉から出て行った。
「…食事したかったのになぁ~」
私は、少し不満気に職場を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!