出会い

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泣いたのはいつ以来だろうか。 今が西暦何年かも知らないのだから、尚更の事分からない。 (´;ω;`)『…………!』 僕は戻ってきたんだ。 しぃのいる世界へと。 嬉しさのあまり他の事を考える事が出来ない。 涙が止まる様子は、欠片も無い。 声を出そうとする。 出せない。当然だ、僕は聾唖者なのだから。 けれど、僕はあの暗い精神世界の中で知る事が出来た。 伝えよう。 ぶっつけ本番だから、きっと上手くは発音出来ない。 それでも構わないから、精一杯伝えようとしよう。 (´;ω;`)「……うぅ……うぁぁ……」 ただでさえ涙で声が詰まっているのに、 生涯で初めて何かを声にしようとしているのだから、言葉になる筈が無い。 きっと呻くような音にしかなっていないのだろう。 実際の事は、分からない。 (´;ω;`)「ぁ……い、び、あああ……」 でも、でもだ。 伝えようとする意思があれば、きっと彼女に伝わる筈だ。 この世界に存在する言葉にはならなくても、 二人だけの世界で通じる言葉にはなる筈なんだ。 (´;ω;`)「ひぃ…う、ぐぃあ……」 届いてくれ。 (´;ω;`)「ずぎば……ずいあ……ふぃ……」 この、大切な言葉よ。 (´;ω;`)(お願いだ……! 声になってくれ…・…!) 舌、喉、唇。 僕は教わった通りに動かした。 複雑な舌の動き。 様々な声帯の振動。 曖昧な唇の開閉。 全てが彼女にメッセージを送るために連動している。 発音出来ているのかどうか、それはやはり、分からない。 僕が言おうとする、五文字の言葉。 簡単で、だけど正直で。 何よりも、ずっとずっと美しい言葉だ。 しぃ、すきだ。 それ以上の言葉なんて見つからない。 世界で一番美しいこの言葉。 彼女の名前と、彼女を想う僕の気持ち。 僕の最愛の人の名前、『しぃ』。 愛情とか、友情とか、慕情とかでもない。 ただ、純粋に『好きだ』と想う気持ち。 メールで幾度と無く打った、どんな物よりも綺麗な響きの言葉。 声に出したい。出して、伝えたい。
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