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光司は何度も誘ったというが、やっぱり可哀相に見えてしかたない。
気付けば、その場にいた全員がこちらの様子を心配そうに見ていた。
ヒュッ
「え?」
少年が何か言った気がしたその瞬間、少年がかろやかなドリブルで脇を通り抜けて行く。
振り返ると、いつの間にかそこでディフェンスに回った光司とその少年の一騎打ちが開始されていた。レッグスルー、少年はボールを弄びながら光司を挑発している。
やっぱりこの子、かなり出来る。
「にゃろお!」
痺れを切らし光司が手を出す。
「…………」
鮮やかだった。少年は無言のまま、嘲笑うかのように光司をバックロールで抜いた。まるで光司の技をそのまま盗んだかのような鮮かさだった。
「うへ!?」
驚いた光司が振り返った時、すでに少年は見事なレイアップを決めていた。少年はバスケットから落ちてきたボールを持って立ち、こちらを向く。
「負けた~。凄いね、やっぱり出来るじゃん」
光司はこの少年と勝負してみたかったのだろう。
「うおー!!」「すげぇ!!」
ちょっと遅れて子供たちから大歓声が上がる。光司は悔しそうに腕を腰にあてていたが、笑っている口元からして満足したようだ。
「…………」
そんな歓声の中にもかかわらず、少年はボールを持ったまま俯いて動かない。
相変わらず表情は見えないし少年にも喜んでいる素振りはないのだが、俺にはその少年が少しだけ笑ったように見えた。
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