始まり

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始まり

その者にとって、日々はすでに退屈なものだった。 長く生きすぎたというべきか。 それとも、受け継がれた記憶が膨大だからだろうか。 理由はもう分からない。 それを考えるのは暇潰しになるかもと彼女は思った。 館に独り暮らし。 一人というのは正確ではないかもしれないが、詳しいことは後で述べるとしよう。 館は洋風だが、彼女が普段出歩かないため、近所ではお化け屋敷と陰口を叩かれている。 中は玄関の扉を開けると吹き抜けに大きなシャンデリア、螺旋階段が目に入る。 彼女は退屈なこんな日は誰かこの館に訪れるような気がして、玄関のソファーに座り、花瓶に生けられた花と、古びた額に飾られた絵を、あくびしながらみていた。 「くるのなら早くこないかしら」 彼女は呟いた。 「ナ~」 鳴いたのは黒猫。 彼女によくなついているようだ。 猫は彼女にすりよると、喉を鳴らした。 彼女は猫をちらりと見て体を撫でてやったが、再び視線を戻す。 彼女には現代は退屈すぎる。 産まれるのが遅すぎたのだろうか。 この館には電化製品はない。 彼女が好まないからだ。 だから、テレビもない。 世間の情報は新聞で読んでいた。
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