第一章

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 千樹大学は、私大だ。普通は、私大というと、さほどレベルが高くないと思われそうだが、ここの大学は、海外の有名な大学の教授が、(M〇Tやケン〇リッチなど誰でも知ってる大学だ)わざわざ、留学生としてやってくる(ここの理事長曰く、「教える人間はこれ以上いらない。」というのが、先生として雇わない理由らしい)そんな大学で、俺は、教授なんてしている。ジャンルは民族学。一応、講座も持ち、部屋も与えられ、研究もそれなりの成果を上げている。…ただ、他の学部と違い、教授の他に教えるべき立場の人間が誰もいない。助教授も助手も講師さえもだ。普通ならありえないはずだが、いないのだから、しょうがない。なぜ?と聞かれると、理由がある。ただ、その理由はあまりにも、突拍子がなく、言うと、ほぼ99%の人が冗談に受け取る。だから今は言わないでおこう。その内あきらかになるから。  「翠樹先生。お手伝い、いりませんか?」  にこにことまるで春の日ざしのような笑顔で俺の前にいる男はいった。ちなみに容姿は少しくせっ毛で切れ長の二重、高い鼻に…まあ簡単に言えば美形だ、年はたしか、今年で45歳。(外見は、20代後半ぐらいにしか見えない)名前は、蒼樹 涼(あおきりょく)という。  「はい?」  俺は、いきなり言われたので、まぬけな声を出した。  「あれ?聞こえませんでした?それではもう一度。民俗学部の教授、翠樹 薬嗣くーん。ただ今、理事長が、お手伝いをいりませんか?と聞きました。お返事は、いる・いらないでお答えください。」  またしてもにっこりと笑う。いい忘れていたが、俺の名前は翠樹 薬嗣(みどりぎやくつぐ)と言う。  「……。いりません。」  「じゃあ、さっそく手配しましょう。」  「じゃなくて!理事長!あなたも俺の体質、御存じでしょう?!今まで入って来た奴全員やめさせたこの恐るべき体質を!!」  「だからと言って、今までのままだと、あなたが、保たない。」  今まで笑っていた顔が、真剣な眼差しになる。  「………それは。」  たしかに、たった一人で千人からの生徒を見るには、身体が限界になりつつある。  「私は、あなたには、先生を続けてほしいし、何より私が、あなたを手放すつもりはないんですよ?」  美形に告白されると、何も言えなくなる。  「大丈夫ですよ?あなたには、ぴったりの相手ですから。」  満面の笑みで太鼓判をおした。
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