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「ただいま」
しんと静まり返った家の中に声は吸い込まれていく。
返事はない、あるはずもない。
「おかえり、途中道に迷わなかったか?」
しかし返事はあった。
覇気があり、若干嗄れながらも優しさを含んだ声だった。
その声は酷くその子にとって何等思わない、雑音。
「べつに、ここ…自分の住んでた場所、だし、な」
「くく…それもそうか…」
笑いながら返事をする声の主は人目見ただけでは齢70を迎えるという人には見えない、がっしりとした体格の老人だった。
「お前の他の荷物はもうすぐ若いのが持ってくる、こき使ってやれ」
「…うん、ありがとう」
酷く事務的なやり取り。
老人もそれしか出来無いのもわかってるし、その子もそれ以上するつもりはなかった
帰ってきたその日の朝のこと。
吹き付ける春風が、未だほんのり冷たい頃。
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