『絶望』

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ほのかな鉄の香りとスミレの香りが鼻を刺激し、去っていった。 そこはたとえばお花畑のようなのどかさが、だけど空は赤と青と黒で混ざりあった虚無のような。 「どうしてそんなに悲しそうなの?」 かすれてでもきれいな女性の声が背中から聞こえたような気がした。 けれど振り返ってもそこには誰もいなくて、さっき見ていた同じ景色が広がっているだけ。 「空に映っているのはあなた自身?」 またさっきと同じ声が聞こえて、でもそれはさっきと違って背中からじゃなく頭の上から聞こえた。 けれど上を見ても、赤と青と黒が混ざりあった空が広がっているだけ。 ここがどこなのか、そう考え始めたのもこの声が聞こえたあと。 でも全く分からない。思い出せない。思い出せないことはここにいるということ以外の全て。
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