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「真由に、言われたよ。僕がここを出たのは、父さんに認めてもらいたかっただけなんだって。絵を焼かれたことに腹をたてたのではなく、分かってもらえなかったことが悲しかったからなんだって。そう言われて僕は、涙が出たよ。言われるまでは気付かなかった。あんなに憎くて辛かった気持ちが、いつの間にか消えていたよ。僕をここまで連れてきてくれたのは、真由なんだ。だから…今は、憎んでなんかいない。むしろ、謝りたいよ」
アベルは穏やかに微笑んでそう言いながらきつく目を閉じた。涼子は涙ぐみながら頷いてアベルの隣に座り、
「お帰りなさい、アベル。あなたも、変わったわ。強くなったのね」
と言って抱きしめた。アベルはそんな涼子を優しく抱きしめると、
「…ただ今、母さん。悲しませて、ごめん」
と言うと、涼子はさらに涙が溢れてきて、二人は泣きながら暫くそうして抱き合っていた。
やっと、帰ってこれたんだな…。
アベルはそう思うと、切ない気持ちと真由への感謝の気持ちが溢れて止まらなかった。
*
深夜2時頃。
真由は、疲れたのか、ぐっすり眠っていた。そこにドアがゆっくり開いて、ある影が忍びこんできた。ユラユラ揺れて、影は真由のベッドへと向かい、やがてベッドに倒れ込むと、真由の体に当たり真由はそこで目を覚ました。
「ア、アベル??」
暗闇の中に誰かがいる。
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