一之幕

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 「晴明様。晴明様。どうか、お目をお覚ましください。」  「ああ……?悪い……もう少し……。」        晴明は、掛けていた襠(うちかけ)を頭まで上げた。  「いけません!先程からお大臣(とど)の御使者がお待ちしております。」  「………道長様の?」       道長とは、時の大臣藤原道長(ふじわらのみちなが)である。貴族の中でも、最大の権力を誇り、晴明の腕に絶大な信頼を寄せる人物だ。       「道長様がねえ……。又、呪物でも見つけたかな?」  権力が絶大であればあるほど、人からの嫉み、恨みを買いやすくなる。  その為、貴族はこぞってお抱えの陰明師を雇いいれ、人々の悪意から身を護ってきた。       「いえ。今日は違う様ですよ?先程、朱雀(すざく)が、お主人のお屋敷に様子を見に行ってまいりました。」  「ふむ。では、何か占じて欲しい事があるのかな?ああ、済まないが六合(りくごう)後で、保憲(やすのり)殿に今日は行けなくなったと伝えてくれ。」  「御意。」  六合と呼ばれた青年は頭を下げると、晴明の影に消えた。  「………俺の式神は有能だな。」  晴明はフッと笑った。               因みに晴明の家には晴明以外には誰もいない。  先程、名前が出てきた二人は、晴明の式神である。  式神とは、契約によって、陰明師の使いになるモノ、又、陰明師の霊力によって作り出されるモノの事である。  晴明には、契約によって使いになった式神が、12人おり、一人を制御する事も難しいはずなのに、晴明は12人全員を同時に操る事が出来る。それゆえ、晴明は、他の陰明師から別格扱いされる。       「さて。………行くか。」  晴明は手早く身仕度を終わらせると、白い紙に何か唱えると息を吹き掛ける。すると、見る間に牛車ができあがる。  「今日は良い日になりそうだ。」  晴明は、牛車に乗り込むと、ゆっくりと牛車を走らせた。
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