玲瓏(弁望小説1)

4/6
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
――そうだ。 「揺るぐ必要がどこにある?鬼若」 出した自分でも少し驚くほどに醒めた冷たい声が辺りに響いた。 それと同時に、自分の心が澄み切り、冷たく凍り付くのを感じる。 そう、確かに愛している。 他の誰よりも、何よりも。 愛している。 だが、所詮は住むべき世界が違ったのだ。 あの時は泣いていても、案外今は笑って過ごしているかもしれない。 あの娘は、幸福な世界に帰った。 あの桃源郷へ。 瞳さえ閉じれば、君は笑っているから。 僕を呼び、涙を流すあの姿にはそっと蓋を被せて、ただの自己満足に浸る。 煌々と輝く満月を見上げる。 あの世界に、今君はいる。 幸せに、微笑んで。 この世界のことを。僕のことを忘れて。 ただ、幸せに。 これが、正しい結果。あの状況でなくとも、こうなるべきだった、最良の選択。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!