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――そうだ。
「揺るぐ必要がどこにある?鬼若」
出した自分でも少し驚くほどに醒めた冷たい声が辺りに響いた。
それと同時に、自分の心が澄み切り、冷たく凍り付くのを感じる。
そう、確かに愛している。
他の誰よりも、何よりも。
愛している。
だが、所詮は住むべき世界が違ったのだ。
あの時は泣いていても、案外今は笑って過ごしているかもしれない。
あの娘は、幸福な世界に帰った。
あの桃源郷へ。
瞳さえ閉じれば、君は笑っているから。
僕を呼び、涙を流すあの姿にはそっと蓋を被せて、ただの自己満足に浸る。
煌々と輝く満月を見上げる。
あの世界に、今君はいる。
幸せに、微笑んで。
この世界のことを。僕のことを忘れて。
ただ、幸せに。
これが、正しい結果。あの状況でなくとも、こうなるべきだった、最良の選択。
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