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――もうすぐ月が出るな。
最近はようやく残暑も過ぎ去り、夜風の涼しさに秋らしさを感じ始めた。
俺は白みがかった東の空を見ながら、縁側で特に何をする訳でもなく座っていた。
いや……正確に言うと、答えを出せずにいる問題から逃げて来たのだ。
――そろそろ決断しなくてはいけないのに。
俺がこの世に生を受けて二十八年経つが、今までにこれ程頭を悩ませた事はないであろう。
これから俺の下す決断で俺だけではなく、一人の人間の運命すらも変える事になるのだから。
――しかし俺にそんな権利があるのか。
男にしては白くて細長い九本の指を俺は見つめた。
そう、俺には左手の薬指が無い。
小さい頃に交通事故で切断したのだ。
しかも左手の神経が鈍くなり、左手での動作には時間がかかる様になった。
今まで当たり前の様にあったものを、突然自分の意思とは関係無く失ってしまった。
ショックを受ける俺に、医者は命が助かっただけでもと無責任な発言で励ました。
確かに命は助かったが、それからは左手が原因でいじめにも合い、塞ぎ込む日々が続いた。
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