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 どんなに頑張っても、焦っても俺だけではどうしようにも無いことがある。俺は静かに息を吸い、少し早い鼓動の音を聞きながら麻沙美の答えを待った。 「あたしの事を好きになる人、初めて見た」  静寂の世界を切り裂いた麻沙美の答えは俺が待っていた物とは全然違うものだった。麻沙美は俯き、何処か遠い過去を見ていたのだ。 「あたし、人から好かれるのも好きになるのも怖いの」 「どうして?」  気の利いた耽美で華麗な言葉なんて出てこない。だって俺にはまだ麻沙美が見詰めている物が殆ど見えてないのだから。俺は麻沙美の言葉を静かに待っていると麻沙美は瞳を揺らしながら静かに語りだした。 「人間は一つには成れないもの。自分とは違うものは迫害して傷つける。大切にしていた、繋がりや想いが壊れていくぐらいなら何もしないでそのままの方が良い」  確かに人間は一つには成れない。未だにアメリカは中東に牙を向け、日本は北朝鮮に。そして中国は半世紀も昔の戦争の憎悪を利用して外交をしている。それに宗教や人種の違いで戦争が起きている。この世は決して愛に満ち溢れてはいない。満ち溢れているのは人間のエゴと欲望だった。でも俺はこんな世の中でこんな人間でも、獣では無い人間だから出来ると信じている事が有った。
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