1⃣吹く風は冷たく…

4/4
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「本当か?…なら、かえってよかったかなぁ。映画はまだしばらくやってるし…」 「…うん」 「そっか、わかった。…用事はそれだけなんだ」 「うん」 「じゃあ、またな」 「うん、おやすみ」 「あぁ、…おやすみ」  一哉からの電話は、あっけなく切れてしまった。由香の胸の奥には、解決のつかない気持ちがもやもやとたまっていた。  彼氏からの電話なのに、まったくときめかないことに対する申し訳なさ。  面倒な連絡を、自分からしなくてすんだことを喜ぶ気持ち。  デートの先約をお手軽に断った一哉に対するいらだち。  逢えなくなっても、やっぱり少しも悲しくならない自分に気付いたショック。  螺旋を描くようにテンションが落ちていき、何もかもを諦めてしまいたくなる。 「潮時、かな…」  頭の中で考えがまとまるよりも先に、言葉が由香の口を突いて出た。自分で言ったことなのに、ひどく驚いてしまった。あまりにも的を得ていたから。  面倒になってしまったら、きっともう恋はおわりだ。今の気持ちを我慢する意味が、由香にはまだ見いだせなかった。 「このまま、何も変わらないなら…、たぶん…」  由香は、一哉と、別れるだろう。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!