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「本当か?…なら、かえってよかったかなぁ。映画はまだしばらくやってるし…」
「…うん」
「そっか、わかった。…用事はそれだけなんだ」
「うん」
「じゃあ、またな」
「うん、おやすみ」
「あぁ、…おやすみ」
一哉からの電話は、あっけなく切れてしまった。由香の胸の奥には、解決のつかない気持ちがもやもやとたまっていた。
彼氏からの電話なのに、まったくときめかないことに対する申し訳なさ。
面倒な連絡を、自分からしなくてすんだことを喜ぶ気持ち。
デートの先約をお手軽に断った一哉に対するいらだち。
逢えなくなっても、やっぱり少しも悲しくならない自分に気付いたショック。
螺旋を描くようにテンションが落ちていき、何もかもを諦めてしまいたくなる。
「潮時、かな…」
頭の中で考えがまとまるよりも先に、言葉が由香の口を突いて出た。自分で言ったことなのに、ひどく驚いてしまった。あまりにも的を得ていたから。
面倒になってしまったら、きっともう恋はおわりだ。今の気持ちを我慢する意味が、由香にはまだ見いだせなかった。
「このまま、何も変わらないなら…、たぶん…」
由香は、一哉と、別れるだろう。
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