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一哉とは別れる、そう決意した由香だったが、現実には何も進展していなかった。二年間という歳月は、想像以上に大きなものであるらしい。
由香と一哉が付き合い始めてから、もう二年がすぎている。その間には、もちろん色々なことがあった。喧嘩だってしたし、嫌なこともあった。でも、その分だけ楽しいこともあったのだ。
一哉と過ごす時間は、いつも穏やかだった。
別れを意識している由香が、タイミングを計るように、また、心を確かめるように、これまでよりも細やかに一哉を見つめているからだろうか。その穏やかさや安心感は、身に染みて感じられた。この安らかさを失ってしまうのは、あまりにも惜しい気がしてきた。
由香の気持ちは少しずつ揺れはじめていた。
そもそも由香は、一哉が嫌いになったわけではない。ただ、《死ぬほど恋してる》という感じではないだけで。
それはつまり、別れることもできるが、別れずにいることもできるということなのだ。
それに、《彼氏がいる》ということには、妙にメリットが多い気がする。
たとえば、クリスマスやバレンタインなどのイベントのとき、淋しさも、侘しさも、虚しさも、とりあえず免れること。
たとえば、面倒な誘いを断りたいときに、「デートの約束がある」と言えば、なみかぜ立てずにすむこと。
こういうのは、ほんの些細なことに思えるけれど、失ってみると、意外に大きな意味があることに気付く。
それに、実は、由香にはもう一つ気になることがある。それは、「一哉が空気だったらどうしよう」ということだ。
空気は目には見えない。だから、普段はその存在に気付けない。でも、一度消えてしまったら、苦しくて、苦しくて、人間は生きていけなくなる。
もし、一哉の存在が由香にとっての空気だったら…。それを思うと、由香はなんとなく不安になった。
なにしろ、空気は、なくなってからその大切さに気付いても遅いのだ。軽い気持ちで手放してしまったら、大変なことになるかもしれない。
どうしても我慢できないところがあるわけじゃない。浮気されたわけでもない。まして、他に好きな人がいるわけでもないのだ。
由香の気持ちはぐらぐらとあちこちを揺れ動いていた。
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