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プロローグ ~prelude~
僕には兄がいたらしい。
僕が小さいころ、両親がそう話していたのをなんとなくだが、覚えている。
だけども、家の中には兄と思える写真などを僕は見たことがない。
でも、僕だけはその姿がなんとなくわかる。
いつも夢の中に出てくるのがきっと兄なのだと僕は思っているからだ。
僕は幼いころから、よく夢を見る。
その夢には僕とそっくり。
いや違う。顔、体型、身長、すべてが瓜二つ。
最初は恐怖とも取れる感情だったのかもしれない。
それでも次第にその感情は大切なものに変わっていった。
いつしか毎日の夢を楽しみになるようになっていった。
その夢の内容はいつも覚えているのだが、いつも起きたときにはなぜだか僕の瞳からは涙で溢れていて、頬を伝っていた。
夢を見るようになってからしばらくして、小学生にあがるときに両親にそのことを話したことがある。
最初は驚きの顔。
その後は、嬉しいような、悲しいような顔で笑っていた。
両親の顔は笑顔なのに、泣きそうな顔をしていたのをよく覚えている。
そして、母さんは僕を抱きしめ、ゆっくりと言った。
「きっとその子は宙のお兄ちゃんだよ。」
後ろで聞いていた父さんも母さんと似たような顔をして頷いていた。
その人は夢の中なのに、いつも僕と同じ。
僕がどれだけ成長しようとその人と僕は外見の違いは少しも見当たらなかった。
ただ違うところがあるとすれば、内面、つまり性格はだいぶ違うように感じた。
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