954人が本棚に入れています
本棚に追加
/108ページ
この鍵束の中に食堂から繋がる扉が開くかも知れない。
そう考え、
「早紀!暴れるな。絶対に出してやるから、大人しくしてるんだ」
そうたしなめるように言うと、早紀は不安気に
「本当…?」
涙混じりに答えた。
早紀には見えないと、頭では分かりながらも俺は深く頷く。
「だから、暫く待っていてくれ。なるべく、早くに戻って来るから」
告げた言葉に更に血がボタボタと勢い良く垂れて来た。
「嫌! 何処に行くの?! 此処にいて!」
悲痛な早紀の声に良心を痛めながらも心を鬼にして、告げる。
「必ず、戻って来るから」
俺はまたそう言うと、複雑な気分になりながら。
言葉を付け足した。
「兵藤の親父さんを……。早紀のパパを連れて、必ず戻って来るから」
その言葉に反応するように。
鳥籠がカシャンと、また僅かに揺れた。
「パパを…?」
また、早紀には見えないと知りつつも、深く頷き──。
誓うように言う。
「ああ。必ず、連れて戻って来るから。少しだけ、我慢して待っていてくれ。必ず、出してあげるから」
「……」
暫く思案するように少し押し黙ってから。
「早く…戻って来てね?」
哀願するように早紀が呟くように言った。
それに必ず──と。
そう、答えて。
俺は地下室から出ると同時に膝を付いた。
余りにも残酷過ぎる……。
涙を堪え。
それでも、段々と感覚が麻痺して来ている自分自身に畏怖の念を抱きながら、俺はまた立ち上がり。
食堂へと向かった。
最初のコメントを投稿しよう!