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幼い頃からしゃぼん玉が好きだった。
あの淡く多種な色に滲んだ玉が天に昇る。
刹那、私の顔がそこに映る。
風景が映る。
そうして幻想的な光の流れに満たされた景色に、小さかった私はひどく心を牽かれた。
この歳になってもそれは変わっていない。
今吹いたしゃぼん玉に映ったのは、小高い丘の上の公園だ。
立ち並ぶ桜の木々はまだつぼみだらけで、開花しているものは数えるほどしかない。
木々の間から差し込む夕陽の光は既に紅を帯びていた。
そのせいで私は妙な焦燥感に襲われている。
もうすぐ日が暮れゆく。
あの暖かな太陽が沈んでしまうかと思うとふと不安になる。
この一日、やり残したことがあるのではないかという不安。
それが私を急かせるのだ。
時は一刻、また一刻と過ぎゆく。
この不安な思いを消し飛ばそうと私はしゃぼん玉を吹きにきたんじゃなかったか。
夕希もサッカー部の後輩との卒業祝いの打ち上げがあると言っていたし、今頃はハメを外しているのだろう。
嫌なことは忘れていようと、ベンチに座ったまま、私はまたしゃぼん玉を吹いた。
とはいうものの、実際に一週間後、我が身にふりかかる不幸は逃れえない。
しゃぼん玉に現実逃避しようとしても、逆に意識してしまい、頭から離れてくれない。
沈欝な気分で溜め息をついていると、そこで私はふとしゃぼん玉が増えているのに気がついた。
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