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「君が好き。」
呼出されたあたしに吐かれた言葉。
一体この人は何を求めているのだろう。あたしなんかに。別に彼が嫌いな訳では無い。寧ろ欲しいくらいだ。けれども幼い頃から愛される事のなかったあたしにとってこれは受け入れ難い事実であり、戸惑っているのは事は確かな事実なのである。
「あたしなんかを、」
云いかけた瞬間を遮って抱き締められる。
「なんかとか、云わないでよ。君だから良いんだよ。」
鳴呼、この人はなんて優しい人なのだろう。あたしなんかを抱き締めて、君だから、なんて。
きっと知らないのね。花の事実を。
幼い頃から薔薇の花だったあたしを。
「ありがとう。あたしも、だいすきだよ。」
ええ、あなたが大好きよ。
微笑んだ彼が其の儘あたしに倒れ掛かる。
腕に少し力をかけて其れを抜き取る。いつも力がいるこの作業は好きではないが致し方ないと肯定的でいる他ない。
幼い頃から愛される事なかったあたし。それはきっとみんなが知っていたから。彼は馬鹿だったのだ。そして無知だったのだ。
馬鹿で無知な男は大好きだ。
薔薇と云うものは触れるものを無差別に突刺す。
そして血を吸い更に赤みを増し己の美を磨く。
薔薇の中で生み落とされたあたしも同じ。
「血をありがとう。また美しくなれるわ。」
馬鹿で無知な男は大好きよ。何も知らずに美を振り撒くから。
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