無意識恐怖

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腕時計の針は午前七時二十分を指していた。学校行きのバスが来る十五分前だ。 実感が沸かないが、どうやら思い出に浸っていた時間は、そんなに長くなかったらしい。 「早く行かないと、バス来るな」 心残りはあるが、現在(いま)は現在だ。 空家を今一度見ると、有飛はバス停に向かう為歩き出す。 バス停まで後数分で到着、という時。有飛は再び足を止めた。 そこは、有飛が通っていた――この春卒業したばかりの、中学校の校舎。 『この春』というだけあって、校舎には何一つ変化はない。 卒業した時のままである。 「懐かしいな、ここも。まぁ……卒業したばっかだけどさ」 『懐かしい』。有飛は、中学校の校舎を懐かしんで言った訳ではない。 中学二年生の時、有飛の身に起こった出来事を懐かしんで、言ったのである。 既に緑の葉となった、校庭の桜の木。 その出来事が起こったのも、丁度、まさにこんな時期――初夏だった。 風によって顔にかかった髪の毛を手で払い、有飛はまた過去の記憶に思考を委(ゆだ)ねる。
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