メリークリスマス

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  顔に乗せられた白い布。 冷たくなった体。 もう起きることのない息子を、二人はただ呆然と見つめていた。 「飲酒運転のトラックに轢かれ、ほぼ即死でした。容疑者は逮捕済みです。 死亡推定時刻は8時半から9時」 「8時半から9時!? 私達は9時過ぎに帰って来て、それから浹とずっと一緒だったのよ!?」 「奥さん…お気持ちはよくわかります。ですが、どうか落ち着いて下さい」 「落ち着いてられるものですか!! 浹は…明日私が作る料理を楽しみにしてたのよ…プレゼントだって、内緒で買うつもりで…。 これからはちゃんと母親をするって決めたのにっ…」 彼女は涙が溢れた。 泣き続ける彼女の肩を、彼は抱き寄せる。 刑事は傍に置いていた袋を持ち上げた。 「どうやら、何かを買いに行った帰りに事故に遭ったようですね。 中身は見付かりませんでしたが…」 「!」 それは、ぐちゃぐちゃに潰れたケーキ屋の白い箱だった。 だが中身はなく、ただの空箱。 二人は余計涙を溢れさせた。 「苺のショートケーキだわ…あの子、私達に食べさせたくて…。 …ぅ、ぅっ…浹っ…浹っ…私、母親らしいこと…何もしてないのに…!!」 「…いや…お前は浹の母親だよ」 彼は泣きながら笑っていた。 「その涙は、母親の涙だ」 彼女はもう、涙が止まらなかった。 二人は家に帰って来た。 もう朝日が顔を出そうとしていて、家の中は少し明るい。 だが二人の心の中は真っ暗だった。 二人は、息子の部屋に行った。 「浹…」 机とベッドとエアコンしかない部屋。 これが子供の部屋だとは全くもって考えがたい。 二人は綺麗に整頓された机に置かれたメモを見付けた。 そして、目を見開く。
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