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彼は酷く痩せていた。そして何かに縛られているかのように全く動かない。何年部屋から出ていないのだろう。
―母さん、僕を生んでくれてありがとう。最後まで僕の母さんでいてくれてありがとう。―
そのように書かれたメモを口に含むと彼は部屋を飛び出し、マンションの屋上へ向かった。
「僕は弱い人間だ。母さんごめん。」
彼は枯れはてたはずの涙を再びこぼした。
「僕は……」
乱れた呼吸を必死に押さえながら彼は叫んだ。
「もっと生きたいよ」
次の瞬間彼は大きく地面を蹴りだした。絶えまない恐怖が彼を襲った。
地面が徐々に近付いてくる。
『聡志、お前は俺の友達だ。ずっと親友だからな。』
彼はたった一人の親友の徹(てつ)の言葉を思い返していた。走馬灯のように断片的な記憶が蘇る。
「徹ありがとう。」
そして彼は全ての鎖から開放された。
口からこぼれ落ちたメモの最後にはこう書かれていた。
―生まれ変わったら もう一度母さんのもとに生まれて もう一度徹に会いたい―
~END~
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