甘いkiss苦いkiss

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 海に沈みゆく太陽が、キラキラと光揺らめく水平線を赤く染めている。手を繋ぎ、波打ち際を歩く二人の影は、砂浜に静かな時を刻む。優しい音色を奏でる波に視線を向け、私は足を止めた。 「綾子?どうした?」  彼が私の顔を覗き込み、柔らかな笑みを私にくれる。 「んん…、何でもない」  彼を見上げ、精一杯の『ありがとう』を込めて頬を緩ませた。  今はまだ見えぬ未来――。  人はみな寂しがりで、そして儚い。  だから過ちを繰り返しながら、幸せを探し続ける。  私の幸せはどこにあるのだろう…今はまだ分からない。  でも、一つだけ分かるものがある。流した涙が教えてくれたもの。  身を焦がし、狂おしいほどの激しい情熱はいらない。苦いキスはもういらない。  この囁く波の音色のような、静かで優しく、そして甘いキスが欲しい。  私は願う…  この穏やかで、優しい時間がいつまでも続きますようにと。  私は願う…  胸が苦しいほど愛したあの人もまた、いつまでも、穏やかで幸せな時を過ごせますようにと。  私はこの砂浜に残された足跡のように、前を向き、未来に向かって歩き続けたい。同じ未来を見つめられる、大切な人と共に――。
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