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「私、凄く頭が混乱してて…。やっと気持ちが落ち着いたばかりで…。翔太の気持ち凄く嬉しいんだけど、でも、それじゃ繰り返しだって…。ごめん、本当に分からないの」
翔太の温もりに包まれた手を見つめ、しどろもどろに言葉を並べる。
「うん、それは分かってる。だから、半年後まで返事を待つよ」
翔太は、ポンポンと私の手の甲を軽く叩いた。
「半年後?」
「ああ、来年の3月末に帰ってくる。返事はその時でいい。綾子の気持ちが納得いかないなら、友人は…ちょっと気持ち的に無理かも知れないけど、綾子が嫌じゃなければ、前みたいに、一番近い異性として側にいたい。その時は、またチャンスを狙ってアタックする。迷惑って言われても、駄目もとでアタックする!」
冗談めかして笑う翔太に心が救われ、嗚咽の混ざる深呼吸の後に、小さな笑みを見せる。
「綾子…もし返事がオーケーなら、一緒に暮らそう。今からこんな事を言われたらプレッシャーになるかも知れないけど、俺はそれくらいの覚悟で今日、会いに来たんだ」
一緒に暮らそう?それくらいの覚悟で会いに来た?それって、まるで……。
「綾子との未来予想図、今なら見えるよ。もう、簡単に消したりしない」
翔太は優しく微笑み、私の手をギュッと握りしめた。
こんな私との未来を、あなたは、また描いてくれているの?――震える唇。止めどなく溢れる涙。
「翔太…ずっと、あなたに言わなきゃいけない言葉があったの。ありがとう…」
夕暮れの砂浜、太陽の名残りの熱を含んだ砂に、涙がぽたぽたと落ちては滲みていく。
翔太は私の肩に手を置き、うつ向く私の額にそっとキスをした。唇が微かに触れるだけの、優しいキス。私は涙で濡れた顔を上げ、翔太を見つめた。
「えっと…今のは、どういたしましてのキスだ」
翔太は照れくさそうに鼻を軽く擦り、目じりを下げて柔らかに笑った。
額に残るキスの余韻。額が、頬が熱い。それは、決して激しい熱ではなく、包み込むような優しい温もり。
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