平治元年(1159年)

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 いつものように寺から離れた山中で武芸の稽古に励んでいた。  どこからともなく少女の声がした。牛若はその声をたよりに姿を探した。 「誰か!!おられませんか?」 その声の主は少し斜面に座り込んでいた。足首を捻ったようである。 「歩けるか?手をのばしなさい。」 少女はなんとか手をのばし斜面をのぼった。 「なぜこんな所に一人いたんだ。」 少女は俯いて小さな声で恐る恐る答えた。 「祖父母の体が…良くなくて…薬草を…」 牛若の声の調子に怯えているようだった。 「すまない、起こっているわけではなのだ。この辺りは追いはぎが横行してるから、女の一人歩きは危ないんだ。」 暗い顔をしながら少女はうなずいた。また少女は足を少し痛めているようだ。 「麓まで背中を貸そう。遠慮することはない。私の名は牛若だ。そなたは?」 少女はおずおずと牛若の背に手をかけながら答えた。 「牛若様…私の名は静と申します。」 「様はいらない、牛若と呼べばいい。」 背中にかぼそい静を背負うと麓に下った。
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