私が還る時

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「もう終わりにしよう。もう限界だよ。」 そう言ったのは私の夫武志だった。こんな会話を何度しただろう。何かと私に文句をつけ、私が反抗するとまた声をあらげて罵声を浴びせる。そしてお馴染の離婚届けが目の前に出される。毎日この繰り返しだった。 しかしさすがに離婚することはできなかった。理由は、経済的な損失というのが理由の一つだが、私達の間には5歳になる子供がいてその子の将来を考えると、やはり自立ができるまでは安定した生活が必要だからだ。 しかし今日の私は違った。 「そうね。もう私も限界よ。」 恐らく夫は予期していなかっただろう。まさか私が離婚に対して肯定的な発言をするなど。 「じゃあこの離婚届けに印押せよ。」 この場に及んでも強がっているのか、再び私の前に離婚届けをちらつかせた。 私は何も言わずその離婚届けをとると、静かに印を押した。 その印を押した瞬間私の心の中で【幸せ】という定義が崩壊した。 『経済的に裕福だから幸せ?夫がいるから幸せ?毎日家事をこなして、夫の帰りを待つのが幸せ?何も言わずに尽くすのが幸せ?子供と夫と三人でくらすのが幸せ?』 気が付くと私は涙を流していた。この涙は悲しみや苦痛によっての涙ではない。幸せを忘れてしまったという喪失感によって流されたのだ。 私の求めてる幸せはそんな当たり前の幸せではない。 私の還る場所に幸せはあるのだろうか。 ~Next Continue~
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