一、夢見る少女

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真っ黒な空には、星の瞬きすらない。 どんよりとした闇を少しでも軽くするように、真ん丸の月が申し訳程度に辺りを照らすだけだ。 そんな中、まるで踊るように揺れ動く影が一つ。 こんな寒い真夜中に、人が出歩くことは稀だが――― だが影が動きを止めることはなく、さ迷うようにひたひたと歩を進めている。 「動くなよ……」 足音だけでなく、腹の底から出したような低い声が響く。 だがその声は女性にしては低く感じるが、男性にしては少々高いように感じる。 そんな中足音はまるで駆けていたような速いものではなくなり、じりじりと間を詰めるような足音に変化していた。 「よぉし、いい子だ……そのままだぞ? そのまま……」 ニヤリと笑う雰囲気が伝わる。 忍び足はそのままに、緊迫した空気が辺りを満たしていた。 そしてどこからか一陣の風が吹き、揺れ落ちるマフラーが空を舞いぱさりと地に落ちる。 それがまさにスタートの合図であったかのように、影は走り出した。 .
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