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真っ黒な空には、星の瞬きすらない。
どんよりとした闇を少しでも軽くするように、真ん丸の月が申し訳程度に辺りを照らすだけだ。
そんな中、まるで踊るように揺れ動く影が一つ。
こんな寒い真夜中に、人が出歩くことは稀だが―――
だが影が動きを止めることはなく、さ迷うようにひたひたと歩を進めている。
「動くなよ……」
足音だけでなく、腹の底から出したような低い声が響く。
だがその声は女性にしては低く感じるが、男性にしては少々高いように感じる。
そんな中足音はまるで駆けていたような速いものではなくなり、じりじりと間を詰めるような足音に変化していた。
「よぉし、いい子だ……そのままだぞ?
そのまま……」
ニヤリと笑う雰囲気が伝わる。
忍び足はそのままに、緊迫した空気が辺りを満たしていた。
そしてどこからか一陣の風が吹き、揺れ落ちるマフラーが空を舞いぱさりと地に落ちる。
それがまさにスタートの合図であったかのように、影は走り出した。
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